近年、廃校となった校舎を新たなビジネスの場として活用する取り組みが全国で広がっています。少子化による学校統合や廃校の増加が続く中、地域資源として廃校を有効活用することで地域活性化につなげる事例が注目されているのです。
この記事では、廃校活用の現状から具体的な成功事例、始める際の流れ、かかる費用や補助金制度まで詳しく解説します。
廃校活用とは?

廃校活用とは、少子高齢化や人口減少により閉校となった学校施設を、新たな用途で再利用する取り組みです。全国で廃校が増加する中、これらの施設を地域資源として有効活用することが重要な社会課題となっています。
日本全国で廃校となる学校が増えている背景は、少子化や人口減少、高齢化などの社会的要因です。文部科学省の調査によると、過疎化が進む地域では、児童・生徒数の減少により廃校が発生し、地域住民が主な利用者となるケースが多いといわれています。
一方、都市部では広域を対象とした活用も見られます。廃校は単なる空き施設ではなく、地域資源として新たな価値を生み出す場として期待されているのです。
出典:文部科学省「廃校施設の実態及び有効活用状況等調査研究報告書」
廃校を利用した施設の事例

廃校活用は、全国各地、多様な形で進められています。成功事例やおもしろいアイデア、失敗例から学ぶことについて見ていきましょう。
廃校活用の成功事例
文部科学省が発行する「みんなの廃校プロジェクト」では、47都道府県の成功事例が紹介されています。具体的な取り組み事例については、以下の通りです。
【具体例】
宮城県加美町:
音楽技能習得施設として活用し、若者の技能向上や地域交流の場として再生
愛知県新城市:
児童が使用していたランチルームや調理室を活用し、農家レストランとして再生
香川県三木町:
静かで自然豊かな立地を活用し、希少糖」の生産・研究の活動拠点として再生
このように、学校施設ならではのメリットを活かしたり、地域住民との交流を取り入れたりしたことで、廃校を活用している事例があります。
廃校活用のおもしろいアイデア
従来の学校用途にとらわれない多彩な事例も多く見られます。従来の発想を超えた新しいアイデアを取り入れた事例は、以下の通りです。
【具体例】
山梨県身延町:
校舎や体育館を活用し、ドローンの開発、製造等を行う技術研究所として再生
埼玉県小鹿野町:立地を活かし、映画・テレビ・CM撮影等のロケ地として再生
高知県室戸市:屋外プールを活用し、水族館として再生
立地や地域の特色、ニーズを活かしたユニークな活用が実現されていることがわかります。
廃校活用の失敗例から学ぶこととは
廃校活用がうまくいかない事例も存在します。失敗例に共通する要因として、地域のニーズと合わない事業計画や、運営費・維持管理費の見通しの甘さが挙げられます。また、地域住民との協力体制が不十分な場合、プロジェクトが長続きしません。
地域住民の意見を十分に聞き、現実的な計画を立てることが、持続可能な廃校活用には不可欠です。
廃校活用を始める流れ

廃校を活用したビジネスを始めるには、計画的な準備と手続きが必要です。以下のステップで進めるとスムーズな事業開始につなげることができます。
活用可能な廃校の情報を収集する
まず、自治体の公式サイトや文部科学省の「みんなの廃校プロジェクト」などで、利用可能な廃校の情報を集めます。「みんなの廃校プロジェクト」公式サイトでは、全国の活用可能な廃校情報が一元的に提供されており、立地条件や建物の状態、活用可能な用途などの比較検討が可能です。
また、地方自治体によっては、廃校活用に関する相談窓口を設置していたり、マッチングイベントを開催していたりする場合もあります。直接問い合わせることで詳細な情報を得られるでしょう。
利用条件や募集要項を確認する
廃校の活用には、自治体ごとに利用条件や募集要項があります。地域の活性化や雇用促進への貢献、地域住民との協力、災害時の避難所利用などが求められることが多いようです。応募資格や利用目的、事業継続年数なども確認しておきましょう。
事前相談や見学をする
実際に現地を訪れ、施設の状態や周辺環境を確認します。自治体担当者と相談し、活用計画の方向性について意見交換を行うことが重要です。
自治体の担当者との事前相談では、活用に関する制約事項や支援制度について詳しく聞くことができます。また、地域住民の意向や期待についても確認し、トラブルを未然に防ぐための情報収集もできるでしょう。
申請書類を準備・提出する
活用計画書や事業計画書、団体概要などを作成します。事業の目的、収支計画、地域貢献の内容、安全対策などを具体的に記載しましょう。とくに、地域活性化への寄与や雇用創出効果については、定量的な目標を設定することが求められます。
計画書には、具体的な活用内容や地域貢献のアイデアを盛り込むと、審査で評価されやすくなるでしょう。
審査・選定後、活用を開始する
書類審査や面談などを経て、活用事業者として選定されると、契約を結び、廃校の活用がスタートします。
事業開始後は、継続的な運営管理と地域との関係構築が重要です。定期的な利用状況の報告や地域イベントの開催など、自治体や地域住民との良好な関係を維持することが長期的な成功につながります。
廃校活用をビジネスとして成功させるポイント

廃校を活用したビジネスを成功させるために、いくつかの重要なポイントを押さえておきましょう。
地域住民との協力体制を築く
地域住民の意見を取り入れ、協働でプロジェクトを進めることが不可欠です。地域イベントや交流の場を積極的に設けることで、地域に根ざした施設運営が可能になります。
また、地域の祭りや清掃活動などの地域行事に積極的に参加し、コミュニティの一員として受け入れられる努力も必要です。地域住民が事業の応援団となってくれることで、口コミによる宣伝効果や運営面でのサポートを得ることができます。
明確なビジョンとコンセプトを持つ
事業の目的やターゲット、理念を明確にし、ぶれないコンセプトを持つことが大切です。誰のために、どのような価値を提供するのかを明確にすることで、地域や利用者の共感を得やすくなります。
コンセプトは地域の特性や資源を活かしたものであることが望ましく、他の地域では実現できない独自性を持つことで差別化を図れます。また、そのコンセプトが地域の課題解決や発展に寄与するものであれば、より多くの支持を得られるでしょう。
地域特性を活かした活用プランを策定する
地域の歴史や文化、産業などの特性を活かした活用プランを立てることが、持続的な事業運営につながります。地域資源と連携したイベントやサービスを企画することで、地域全体の活性化にも寄与できるでしょう。
地域の強みを活かすことで、他では体験できない価値を提供できます。
廃校活用にかかる費用と補助金制度

廃校活用には、さまざまな費用が発生します。国や自治体の補助金を活用することで負担を軽減できる場合もあるので、利用を検討することも一つです。
廃校を活用するための費用
廃校を活用するための主な費用として、以下が挙げられます。
建物のリノベーションや改修工事にかかる費用
設備投資や内装工事などの初期費用
維持管理費や光熱費などの運営コスト
老朽化対策や耐震補強など追加工事の費用
事業開始前に、必要な費用を見積もり、資金調達の計画を立てておきましょう。
廃校活用で利用できる補助金制度
文部科学省は、廃校活用を推進するために、さまざまな補助金制度を設けています。
事業名 | 対象となる転用施設等 | 所管官庁 |
過疎地域等自立活性化推進交付金 | 地域間交流・地域振興を図るための生産加工施設、資料展示施設、教育文化施設、地域芸能・文化体験施設等 | 総務省 自治行政局過疎対策室 |
社会資本整備総合交付金 | 都市再生整備計画に位置付けられたまちづくりに必要な施設 | 国土交通省 都市局市街地整備課 |
地方創生推進交付金 | 「地方版まち・ひと・しごと創生総合戦略」に位置づけられ、地域再生法に基づく地域再生計画に認定される地方公共団体の自主的・主体的な取組で、先導的なもの | 内閣府 地方創生推進事務局 |
廃校の活用でビジネスの可能性を広げてみては

廃校活用は、地域資源の有効活用や地域活性化につながるだけでなく、新たなビジネスチャンスの創出にもつながります。地域住民との協力や明確なビジョン、地域特性を生かした事業計画を立てることで、持続可能なプロジェクトを実現できます。
補助金制度や自治体の支援も活用しながら、廃校を新しい価値を生み出す拠点として活用してみてはいかがでしょうか。