都市部での生活に疑問を感じ、地方への移住を考える人が増えています。その選択肢の一つが「Iターン転職」です。しかし、見知らぬ土地での生活や仕事探しには不安がつきものです。
この記事では、Iターン転職の基本的な定義から、メリット・デメリット、後悔しないための具体的な進め方まで解説します。年代別の成功ポイントや、活用できる支援制度も紹介しますので、Iターン転職を検討している方はぜひ参考にしてください。
Iターン転職とは?基本的な定義

Iターン転職とは、都市部で生まれ育った人が、自身の出身地とは異なる地方へ移住して就職することを指します。まっすぐな矢印のように都市から地方へ移動するイメージから「Iターン」と呼ばれているのです。
地方への移住を伴う働き方には、Iターンの他に「Uターン」「Jターン」もあります。Uターンとは、地方出身者が都市部で就職した後、再び地元に戻り就職すること、Jターンとは地方出身者が都市部で就職した後、地元の近くなど、出身地とは異なる地方都市に移住・就職することを指します。
Iターン転職のメリットと3つの魅力

Iターン転職には、都市部の生活では得られにくい多くの魅力があります。ここでは主なメリットを3つ紹介します。
豊かな自然環境とゆとりある生活
地方には豊かな自然が広がっており、都会の喧騒から離れて心穏やかに暮らせるのが大きな魅力です。
Iターン転職をすることで、都市部での勤務と比較して労働時間が短くなる傾向があり、とくに残業時間が少ないといわれています。企業口コミサイト「キャリコネ」の調査によると、残業時間が少ない都道府県の上位には地方が多くランクインしており、三大都市圏は下位に集中する結果となりました。
通勤ラッシュのストレスから解放され、仕事後の時間を趣味や家族と過ごすことに充てやすくなるため、心身ともにゆとりのある生活を送りやすくなります。また、海や山が近いため、釣りやハイキングといった自然を活かした趣味を気軽に楽しめるのもメリットです。
地域によっては家賃などの生活コストが削減
地方は都市部に比べて家賃や物価が安い傾向にあり、生活コストを抑えられる可能性があります。とくに住居費は大きな差があり、同じ広さの物件でも都市部より安く借りられたり、同程度の家賃でより広い家に住めたりすることがあります。
食料品なども地元の新鮮な食材が安く手に入りやすく、日々の食費を抑えることにもつながるでしょう。
出典:総務省「消費者物価地域差指数 小売物価統計調査(構造編)2024年(令和6年)結果」
地域貢献やコミュニティとのつながり
Iターン転職は、地域社会に直接貢献できる機会が多いことも魅力の一つです。地域のイベントや活動に参加することで、住民との深いつながりが生まれやすくなります。
これまで培ってきたスキルや経験を地域のために活かすことに、やりがいを感じる人も少なくありません。
Iターン転職のデメリットや後悔リスク

魅力的な側面がある一方、Iターン転職にはデメリットや「後悔」につながりかねないリスクも存在します。事前に現実的な課題を理解しておくことが重要です。
都市部と比較して年収が下がる傾向
地方は都市部に比べて平均賃金が低い傾向にあるため、Iターン転職によって年収が下がる可能性を考慮しておく必要があります。
厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査 」によると、最も賃金が高い東京都と、最も低い県では年収に大きな差があることが示されています。転職前に希望する地域の給与水準を調べておきましょう。
出典:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況 都道府県別」
利便性の低下と地域の慣習への適応
地方はバスなどの公共交通機関は本数が少なく、移動には車が必須となる地域も珍しくありません。都市部と比べて、交通の利便性が悪いことがほとんどです。
また、地域によっては独自のルールや濃密な人間関係が存在します。消防団への参加や地域の清掃活動、冠婚葬祭の付き合いなど、特有の慣習に適応する必要が出てくる場合があります。
希望職種の求人やキャリア形成の制限
都市部に比べて企業の数が少ないため、求人の絶対数が限られるのが現実です。専門職や特定の業種では、希望する仕事を見つけるのが難しい場合があります。
また、キャリアパスの選択肢が少なく、将来的なキャリアアップや再転職が都市部ほど容易ではない可能性も理解しておくことが必要です。
Iターン転職は難しい?失敗しないための具体的な進め方5ステップ

Iターン転職を成功させるためには、計画的な準備が不可欠です。ここでは、失敗しないための具体的な5つのステップを紹介します。
目的とキャリアプランを明確にする
まず「なぜIターン転職をしたいのか」という動機を自己分析で深掘りすることが重要です。「自然豊かな場所で子育てがしたい」「地域に貢献したい」など、目的を明確にすることで、移住先や仕事選びの軸が定まります。
あわせて、移住先でどのようなキャリアを築きたいのか、将来のプランも具体的に考えましょう。
情報収集と比較検討する
移住候補地の情報を多角的に集め、比較検討します。
自治体の公式サイトや移住支援ポータルサイトなど、公的機関から情報を集め、生活環境や支援制度などを確認します。また、インターネットの情報だけでなく、移住相談フェアなどに参加して、現地担当者から直接話を聞くのもよいでしょう。
具体的に仕事を探す
具体的に仕事を探すために、地方の求人情報を集めましょう。
転職エージェント
自治体の移住サポート窓口
ハローワーク
知人や親戚など
Iターン・Uターンに特化した転職エージェントを活用すると、一般には公開されていない求人情報や、地域の優良企業を紹介してもらえる可能性があります。専門のコンサルタントによる客観的なアドバイスも得られるでしょう。
また、自治体の移住サポート窓口は、求人情報だけでなく住居や生活に関する支援制度もあわせて相談できるため、移住全体の計画を立てる上で心強い存在になります。
資金計画と生活費シミュレーションをする
Iターン転職には、引っ越し費用や当面の生活費などの初期費用がかかります。移住後の生活を具体的にイメージし、家賃、食費、光熱費、交通費(車の購入・維持費など)をシミュレーションしておきましょう。
自治体によっては補助金が出る場合もあるため、事前に調べておくことがおすすめです。
「お試し移住」や現地訪問でミスマッチを防ぐ
移住を決める前に、現地を訪れて実際の雰囲気を確認することが大切です。
自治体が提供する「お試し移住制度」を活用するのもよい方法です。この制度は、移住希望者が一定期間その地域で生活体験できるもので、住居が用意されている場合が多く、気軽に現地の暮らしを体験できます。
【年代別】Iターン転職を成功させるポイント

Iターン転職を成功させるには、自身の年代ごとの強みと注意点を理解しておくことが重要です。
20代のIターン転職:ポテンシャルと柔軟性を武器に
20代の強みは、ポテンシャルと新しい環境への柔軟な適応力です。未経験の分野でも、学習意欲やチャレンジ精神をアピールすることで採用につながる可能性があります。
一方で、キャリアが浅いため即戦力と見なされにくいことや、都市部と比較して給与水準が下がる可能性がある点には注意が必要です。
30代のIターン転職:キャリアとライフプランの両立を目指す
30代は、これまでの実務経験で培った専門スキルを「即戦力」としてアピールできるのが強みです。企業側も組織の中核を担う人材として期待を寄せています。
ただし、結婚や子育てといったライフイベントと重なる時期でもあるため、パートナーの仕事や子どもの教育環境なども含めて、家族の理解と協力が不可欠です。
40代のIターン転職:マネジメント経験や専門スキルを活かす
40代は、管理職経験や高度な専門知識を活かし、地域の中小企業でリーダーや事業責任者として貢献できる可能性があります。経営層に近いポジションで、事業の成長に直接関われるやりがいを得られるかもしれません。
注意点として、年収や役職へのこだわりが強すぎると、応募できる求人が限られてしまう可能性があります。条件にある程度の柔軟性を持つことも大切です。
50代のIターン転職:即戦力としての実績と人脈で貢献する
50代は、長年のキャリアで培った豊富な経験、実績、そして人脈が最大の武器です。企業の顧問やアドバイザーとして、経営課題の解決に貢献することも考えられるでしょう。
求人数は他の年代に比べて限られるため、これまでの人脈を頼ったり、事業承継を視野に入れたりするなど、柔軟な仕事探しの視点を持つことが重要です。
Iターン転職で活用したい支援制度と相談先

Iターン転職を検討する際には、公的な支援制度や専門のサービスを積極的に活用しましょう。
自治体や国の支援制度
国や多くの自治体は、地方への移住と定着を促進するために、移住者の経済的負担を軽減するさまざまな支援制度を設けています。これらの制度を事前に調べ、積極的に活用することで、移住のハードルを大きく下げることが可能です。
制度の名称(例) | 概要 | 支援内容の例 |
移住支援金 | 東京圏から地方へ移住し、特定の条件(対象法人への就業、起業など)を満たす場合に支給される。 | 単身:最大60万円、世帯:最大100万円 |
地域おこし協力隊 | 都市部から過疎地域などに移住し、一定期間、地域協力活動に従事しながらその地域への定住を目指す制度。 | 活動に対する報酬(年間約200万~300万円) |
起業支援金 | 移住先で新たに事業を立ち上げる場合に、その経費の一部を補助する制度。 | 経費の2分の1以内、最大200万円など |
認定新規就農者制度 | 農業を始める移住者に対して、研修期間中の生活費や、就農後の経営確立を支援するための資金を交付する。 | 就農直後(3年以内)の所得を確保する資金(年間最大150万円) |
制度の有無や名称、支援内容、申請条件は各自治体によって異なるため、移住を検討している地域の公式サイトや移住相談窓口で最新の情報を確認してください。
転職サイト・エージェントの活用法
Iターン・Jターン転職に特化した転職エージェントは、地域企業との太いパイプを持ち、非公開求人も多数保有しています。都市部にいながら地方の求人情報を効率的に収集でき、応募書類の添削や面接対策などのサポートも受けられます。
転職活動全般にわたるサポートを受けられるため、一人で進めるよりも効率的で安心です。
情報収集とSNSの利用
自治体や企業が発信する公式情報だけでなく、SNSを活用してリアルな情報を得ることもおすすめです。X(旧Twitter)やInstagramなどで「#(地域名)移住」「#Iターン転職」といったハッシュタグで検索すると、先輩移住者の生の声を参考にできます。
暮らしの様子や地域の魅力、時には苦労話など、リアルな情報を得ることで、移住後の生活をより具体的にイメージできるでしょう。
Iターン転職で理想の暮らしとキャリアを実現しよう
Iターン転職は、都市部での働き方や暮らしを見つめ直し、新たなライフスタイルを築くための大きな決断です。豊かな自然環境や地域とのつながりなど、多くの魅力がある一方で、年収の減少や利便性の低下といった現実的な課題も存在します。
後悔のない選択をするためには、転職の目的を明確にし、十分な情報収集と計画的な準備を行うことが不可欠です。本記事で紹介した年代別のポイントや支援制度も活用しながら、自分にとっての理想の暮らしとキャリアの実現に向けて、具体的な一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
